うちに帰りたい

高齢の親は、ときおりせん妄状態になる。痴呆では無いけれども、認知が怪しい。そんなときは、「うちに帰ろう」と言い始める。ちゃんと自宅にいるのに。
一体、「うち」ってどこなんだろう。
実は私にも、「うちに帰りたい」と思うときがある。生まれ育った実家で暮らしていたときも、ああ、うちに帰りたい。とよく思っていた。自分の家の自分の部屋にいて、これ以上どこにも帰りようがないのに、「帰りたい。うちに帰って休みたい」という思いでいっぱいになることがあった。
そんなに帰りたい「うち」ってどこのことなんだろう。
頭がしっかりしているとき、親に、家ってどこなの?と聞いてみたら、子供の頃に暮らしていた、今はもう取り壊してしまったあの家のことかもしれない。でも少し違う気もする。と言っていた。
なんとなく、ああ、そうか、と感じるものがあった。
帰りたいのは、親元にいて、生活の全てを親に面倒みてもらっていた、あの頃のうちのことなんじゃないか。面倒なことはすっかり親掛りで、自分では、楽しいことや好きなことで満たされるにはどうしたらいいかだけ考えていたあの頃。困りごとがあっても、親が解決してくれたあの頃。
そこにさらに、自分を満たしてくれる親意外の誰かも一緒に住んでいる感じ。
だからうちに帰りたい気持ちは、満たされることは無い願望なんだと思う。