猫のうらやましいところ
お題がいつのまにか、うるう年になってしまった。
猫について書きたかったから本当は書きたかった気持ちを、書きとめておきます。
猫。
それはやわらかい生き物。
猫。
それはふかふかの生き物。
私は猫に生まれなかったことを心から悲しんでいる。
猫をうらやんでいる。
母猫のむわっとしけったお腹の毛に顔をつっこんで、いくらでも曲がるようなやわらかい体を丸めて、みぃぃ、と鳴きたかった。
ひげを広げて、爪を広げて、ふぅっとうなりたかった。
何も見えそうにない宙をじっと見つめて、カッと瞳を開きたかった。
狭くて入れそうにない隙間に入り込んで、やっぱり入りきれず、後じさりしてもがきたかった。
自分の背の何倍も高い塀の上に、身軽に跳び上がりたかった。
すくみそうに高い屋根の上から、ひらりひらりと地上に降り立ちたかった。
敵が来たら慎重に跳び退って逃げ、美味しいものは、ばらばら散らかして食べ、
自分よりうんと大きな人間の膝に、我が物顔で乗り上がりたかった。
そしてごろごろと喉を鳴らして、気に入らないところを触られたら、シャッとひっかきたかった。
目が覚めると、とりあえず、うにゃ、にゃ、にゃと伸びをして、そして縮む。
なんでそういう、猫に生まれなかったのだろう。
いや、もしかして、こうしてこんなにうらやんでいるのだもの。
私は本当は猫かもしれない。
きっと、猫なんだ。
のびのび、猫らしく生きていてもかまわないんだ。
だって、猫なんだもの。
朝おきたら、うぉーっと伸びをして、
体は固いけれど、まあ年のせいだからしかたがない。できるだけ丸くなって縮んでもう一度布団にもぐりこみ、
気に入らない人には嫌みの一言くらい言い、
甘やかしてくれそうな人にはとことんわがままを言い、
敵がきたらさっと知らんぷりしてやりすごし、美味しいものはこっそり独り占めし、
高いところは怖いから避け、
体は重いから膝に負担がかからないようあまりはねたりとんだりはせず、
狭くて入れそうにない隙間をそうじしようと入り込んで、やっぱり入りきれず、これはヤバイと後じさりしてもがき、
何も見えそうにない宙をじっと見つめて、長い時間ぼやーっとし、
夫のひげをみつめては、ああ、女に生まれてよかった。ひげが生えてこないから。顔にこんなものが生えてきたら生きていけないワ。としみじみ幸福感を味わい、
大きくなってくそ重たくなったくせに、いつまでも「お母さん、お母さん」と甘えてのしかかってくる子供に押しつぶされて、「ぐぇぇ」とうめかされている。
そう。これは猫。もう猫。
私は猫なんだ。
そんな風に思って、生きていけばいいのである。